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(Update:2008-8-9 22:18:36)

第7話)太田さんとナイト

太田さんは、60代の小柄できゃしゃな奥様です。
でも、愛犬はナイトという飼い主よりも3キロも体重が重いハスキー犬です。
大きな体だけれども猫のような性格で、とても甘えん坊です。
でも、やんちゃな2歳の男の子です。
幸いなことに太田さんのお家は、神戸の高台にある閑静な1戸建て住宅で、その上に広い庭には、みどりに輝く芝生がうわっていました。


ナイトは、その庭で走り回って、元気いっぱいです。
太田さんは、決してナイトを悪く思ったワケではありませんが、ギブスをつけた左足先を見て、大きなため息をつきました。

ナイトと外に散歩に出た時に、ナイトがいのししを見つけて階段を駆け下りてしまい、引きずられた太田さんは階段から転げ落ち、左足の親指を骨折したのです。
その2ヶ月前にも、洗濯物を干していた太田さんにお庭で遊んでいたナイトが駆け寄り、飛びついた勢いで柱に激突して、肋骨を骨折したばかりでした。


離れて住んでいる息子さんから、「ナイトにきちんとしたしつけをしないと、これから先どんなことになるかわからないよ。お母さんもナイトも不幸になるよ!」と意見されたところでした。


ご主人が亡くなって、ぽっかりあいた心の穴をナイトが優しく埋めてくれたのでした。
ですから、ナイトに何をされてもちっとも腹が立たないので、ナイトのわんぱくぶりを楽しんでいたのですが、何しろ体がみるみる大きくなって、とても太田さんの力では押さえきれなくなってしまっていました。

そんな時に、ご近所に来ている訓練士さんにお願いをしたらば快くナイトのトレーニングをしてくれると言ってくれたのでした。


その訓練士さんは、太田さんに向かって「私はナイト君を教えるのではありません。飼い主であるあなたをナイト君にとって良い飼い主となってもらえるように教えたいと思い、このお仕事を引き受けさせていただきました。ナイト君は、このままでは、あなたをどんなに愛していてもケガをさせたり、迷惑をかける存在になってしまいます。ここでの生活のルールを決めて、それをナイト君に教えることにしませんか?」とナイト君に飛びつかれてよろめきながら笑い顔で太田さんを見つめて言いました。


「本当にナイトは、良い子になれるの?私ががんばれば?」と太田さんは、今度は体当たりをくらわされて引きつり笑いをしている訓練士さんに聞きました。
「もちろんですよ!ナイト君はとても素直で良い子です。ただ、犬のルールしか知らないのです。教えてもらっていないですからね。人と生活するためのルールを教えてあげればもっと楽しく暮らせますよ」とナイトに袖口をかまれて引っぱられながら訓練士さんが言いました。


「さっきから見ていても、この訓練士さんは、ちっともナイトを怒らないわ。私にもできるしつけを考えてくれそうだわ。」と直感的に思った太田さんは、彼女にナイトのトレーニングを教えてもらうことにしました。

太田さんは、愛犬とどのように向き合っていけばいいのかを習い、ナイトにけじめをつけて接することを教わり、オビディエンストレーニングを確実にマスターして行きました。
ナイトは、始めはふざけてばかりでしが、いつしか太田さんの指示をきいて動けるようになっていきました。
太田さんは、ますますナイトが大好きになっていきました。


ある日、太田さんは耳の脇のしこりに気がつきました。
いつものように訓練士さんが運動をして、ナイトを待つ太田さんの縁側にもどってきた時に、太田さんが病院で検査を受けるために入院になるので、ナイトの世話を頼みたいと訓練士さんにお願いしました。
訓練士さんは、「ナイトのためにも健康でいて欲しいですからね。どうぞ、ゆっくり、しっかり診てもらってきて下さい。ナイト君は私が責任を持ってお世話しますから、ご安心を。」と笑顔で応えてくれました。

しかし、太田さんは検査の結果、リンパ腫というリンパのガンだったのです。
すぐに戻ってくるとナイトも訓練士さんも思っていたのですが、太田さんは苦しい抗がん剤の治療を始めることになりました。


いつの間にか、季節が秋から冬へと変わろうとしていた頃に、太田さんの息子さんに訓練士さんは、呼び止められました。
青ざめた顔で息子さんは、訓練士さんに「母は、前の抗がん剤が効かず、新しい抗がん剤に変えることになりました。前の抗がん剤の副作用でかなり弱っているので、今度のが効かないと危ないのです。母は、新しい抗がん剤に変えるなら、その前にナイトに会わせて欲しいと言っています。会わせてくれたら、またがんばれるからと言うのです。抵抗力が低下しているのでナイトと直接会わせることができませんが、ガラス越しなら会わせてもよいと主治医の先生から了解をいただきました。先生、ナイトを連れて病院に来てもらえませんか?」とたずねました。


「もちろんです!ナイトと会わせてあげて下さい!」と訓練士さんは何もわからずじっと自分を見つめるナイトの頭を優しくなでながら力強く言いました。


すぐに日程が決められ、訓練士さんとナイトは太田さんが入院している病院の駐車場にきました。
太田さんと会えるのがわかっているようにナイトは興奮して、いつもならリードを引っぱらずに歩けるはずなのにまるで何もかもが分かっているいるように一目散に病院の打ち合わせをしていた玄関横へすっ飛んで行きました。
訓練士さんもすぐに気がつきました。
なんと太田さんが車椅子で外に出て、ナイトを待っていたのでした。
あきれた顔のお医者さんと息子さんが後ろでこちらに向かって手を振っています。
ナイトは、訓練士さんを引っ張って太田さんのところに猛スピードで走っていましたが、車椅子の前に来るとピタっととまり、太田さんが痩せた手でナイトの頭を優しく撫でれるように寄りそっていました。


冬の訪れを告げる冷たい風が車椅子の太田さんとそっと寄り添うナイト君の間に吹いても、そこにいた誰もが心があたたかくなるほどの光景でした。
「ナイトよく来てくれたね。いい子にしてる?必ず帰るから、もう少しだけ待っててね。」と太田さんがナイトを抱きしめてささやくと、ナイトも太田さんの顔をぺろぺろとなめまわしていました。
何時間もの時間が経ったように思えましたが、数分のできごとでした。


先生にうながされるようにして、太田さんは名残り惜しそうにナイトを見つめて、訓練士さんと硬い握手をして病院に消えて行きました。
後に残った息子さんが、「ありがとうございます。きっと母はナイトの元に戻ってきますよ。母は嘘をついたことがありませんからね。」と涙をかくしながら元気そうに訓練士さんとナイトに向かって言いました。


本当に奇跡が起きました。
新しい抗がん剤は、太田さんに奇跡の回復をもたらしました。
あの面会から1ヶ月もたたないうちに太田さんは退院してナイト君の元に本当に帰ってきたのです。


澄み渡った冬の空気の中で沈み行く太陽のオレンジ色の光がついこの間までは、飼い主を待つ大きな犬のシルエットだったけれども、今日は小さな小さな人陰がピッタリと寄り添ったシルエットになっています。
そのシルエットは、いつも訓練士さんと太田さんがナイトが庭で遊ぶのを眺めていた縁側にレッドカーペットのように伸びていました。


おかえりなさい!太田さんとナイトの深い絆のようなシルエットが深い夜の闇の中に沈んでも目に焼き付いていると訓練士さんは思いました。


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